【SL-1】「胎児科学」とDOHaD
島根大学 理事・副学長
先天異常の臨界期は、臓器の形づくりの時期である器官形成期とされ、本学会で論じられるのもこの時期に起因する「形」の異常である。一方、臓器の「大きさ」は胎児期から生後数年までの組織形成期(器官形成期にできた組織幹細胞から臓器特異的な細胞が分化し構築化して機能が生じる時期)に決まるが、無形成のような極端な例以外は問題にされない。しかし、実質臓器は、腎臓のネフロンのような機能構造的単位の集合体だから、臓器の「大きさ」は単位の総数に比例し、したがって臓器の予備能を含む機能の総量と比例する。年齢とともに単位数は単調減少し、予備能が枯渇して機能が閾値以下になると臓器の機能不全、各臓器を場とする疾患が起こる。演者らは、京都コレクションの胎児の臓器の計測により、身体の大きさが同じ胎児でも、臓器の「大きさ」に2倍以上もの個人差があることを報告してきた。組織形成終了時のその後生涯を支える「健康資産」としての臓器機能の総量におけるこの大きな個人差は、潜在的な疾病素因としてDOHaDの重要な要因となりうると考えられる。しかし、臓器の大きさの調節機構はいまだ不明である。演者らは、神経幹細胞の増殖分化調節機構として脳の大きさの調節に関わるinterkinetic nuclear migration (INM)が、器官形成期における全身の上皮管腔組織の組織幹細胞に存在することを明らかにしてきた。そしてINMが臓器、臓器の部位、発生時期に特異的なパターンで調節されることにより、臓器の組織幹細胞の総数の調節を介して臓器の大きさの調節に関わることが分かってきた。すなわち、形づくりの時期とされる器官形成期に総組織幹細胞数が調節され、それに続く組織形成期にできる臓器の大きさを介して、DOHaDに関わると考えられる。このように器官形成期と組織形成期を重層的にDOHaDとも関連付けた「胎児科学」の視点から統合的に観ることが、先天異常の生涯的な理解のために重要である。