第1日目 – 2022年7月29日 金曜日
※敬称略
- 13:3013:40
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開会式
大会長:八田 稔久
金沢医科大学 解剖学Ⅰ
- 13:4015:20
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シンポジウム1
「先天異常の理解へ向けた頭部発生研究」座長:酒井 大輔金沢医科大学一般教育機構生物学
黒坂 寛 大阪大学歯学部附属病院矯正科
13:40-14:05酒井 大輔金沢医科大学 一般教育機構 生物学抄録
我々ヒトを含む有胎盤類では、受精卵が子宮内膜内に着床するため極めて低酸素な環境で胚発生が進行する。また、母体血からの酸素供給が開始した後も、多くの組織内が低酸素状態であることが知られている。これまでの研究から、低酸素応答のマスターレギュレーターであるHif1αの全身性欠損マウス胚が、心血管や体節、神経管などの形成不全により胎生致死を示すことが明らかとなっている。これらのことから、有胎盤類の胚は、低酸素環境を利用したユニークな器官形成プログラムを進化の過程で獲得したと考えられている。我々は、低酸素依存的な大脳発生プログラムの解明を目指し、中枢神経系特異的なHif1α欠損マウス(Hif1α-cKO)を作製した。Hif1α-cKOマウスは大脳の著しい低形成を示し、生後24時間以内に死亡した。組織学的な解析により、Hif1α-cKOマウスの大脳新皮質ではニューロン、特に深層ニューロンがアポトーシスにより減少していることがわかった。また、このアポトーシスにより、浅層ニューロンの移動に異常が生じ、大脳新皮質の層構造形成に乱れが生じていることが明らかとなった。さらに、in utero electroporation法を用いたsFlt1強制発現により、Vegfシグナル経路がHif1αの下流で深層ニューロンの生存維持に関与することがわかった。本研究から、胚発生期の酸素濃度の変動が、大脳新皮質の形成に大きな影響を与える可能性が示唆された。
14:05-14:30若松 義雄東北大学 大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野抄録
顎の基部-先端部軸に沿って異なる形態・機能の歯が生える異形歯性は、哺乳類の特徴の1つである。発生過程において下顎および上顎はそれぞれ下顎突起、上顎突起と内側鼻隆起の融合によって形成されるが、この時ホメオボックス遺伝子群が基部-先端部軸に沿って異なる領域に発現することがどのタイプの歯が発生してくるのかを決定しているとされる(ホメオボックスコード)。しかし、これまで異形歯性の研究に用いられてきたマウスは切歯と臼歯しかないため、ヒトを含めた基盤的な歯式を持つ動物でどうなっているのか、犬歯や前臼歯に対応するコードはどうなっているかなど、不明な点が多かった。そこで、すべての歯のタイプを持つオポッサムおよびフェレットについてホメオボックスコードを調べ、マウスと比較した。その結果、これまで臼歯と対応するとされていたBarX1遺伝子が切歯や犬歯と対応するとされていたMsx1遺伝子が同時に発現している領域がこれらの動物にはあり、前臼歯をコードしていることや、BarX1やAlx4が発現していないがMsx1が発現している領域が犬歯をコードしていることが明らかとなった。また、マウスの下顎ではBarX1-Msx1共発現領域がほとんど存在せず、この部分が欠損している可能性が示唆された。ヒトの家族性の部分性歯欠損症においてMsx1遺伝子の変異が見つかっていることからも、Msx1遺伝子の機能や発現制御機構が異形歯性にとって重要であることが明らかである。そこで、Msx1遺伝子の顎原基における発現制御メカニズムを解析しており、その成果についても触れる予定である。
14:30-14:55武智 正樹順天堂大学 医学部 解剖学・生体構造科学講座抄録
Sonic hedgehog (Shh)やその下流因子の発現異常は頭蓋顎顔面の様々な形態異常を引き起こすが、Shhを全身で欠失させた変異マウスは頭部全体がほぼ形成されないため、Shhの役割の詳細については不明な点が多い。本研究では頭部領域で組織特異的にShhを欠失させた2種類の変異マウス胎仔の頭部形態を調べた。主に前脳腹側の神経上皮でShhを欠失させたマウス(Sox1-Cre;Shhfl/fl)では、頭蓋底、眼窩、鼻殻、前上顎骨等の形成が異常であったが、口蓋、下顎骨や耳小骨はほぼ正常であった。脳が左右非対称であり、眼球や嗅球の顕著な形成不全が見られたことから、頭蓋顎顔面における異常の多くは脳の発生異常に付随すると考えられた。前脳腹側の神経上皮と口腔・咽頭上皮でShhを欠失させたマウス(Isl1-Cre;Shhfl/fl)では、下顎骨、耳小骨や口蓋骨が完全消失し、蝶形骨を由来する梁軟骨を含む中頭蓋窩が縮小していた。上顎骨、前上顎骨や鼻骨にも形成異常が認められた。Isl1-Cre;Shh fl/flマウス胎齢10.5-11.5日胚では内外側鼻隆起・上顎隆起の癒合部で著明な細胞死が生じていた。胎齢11.5日胚の内外側鼻隆起・上顎隆起の癒合部のRNA-seqより、Isl1-Cre;Shh fl/flマウスではSatb2(Special AT-rich sequence-binding protein 2)の発現低下が上顎遠位部の形成不全の一因と考えられた。またIsl1-Cre;Shhfl/flマウスでは梁軟骨形成部位の間葉における細胞死は見られなかったが、終脳の複数部位における細胞死が終脳の形態異常を引き起こし、梁軟骨形成に不可欠な間葉の集積を阻害している可能性が示唆された。これら2種類のShh組織特異的欠失マウスの頭部形態の解析結果より、神経上皮のShhは脳形成を通じて頭蓋底・上顎形成に大きく影響するが口蓋形成への関与は限定的であること、口腔・咽頭上皮のShhは頭蓋底形成には関与せず、上顎遠位部、口蓋や下顎全体の形成に関与すると考えられた。
14:55-15:20黒坂 寛大阪大学大学院 歯学研究科 顎顔面口腔矯正学教室抄録
口唇口蓋裂、先天性無歯症、歯牙萌出不全を始めとした顎顔面形成不全は先天性疾患の中でも頻繁に認められる症状の一つである。また、顎顔面形成不全は希少疾患や未診断症例においても頻繁に随伴する事が知られており、様々な臓器不全と共通する分子基盤や細胞生物学的メカニズムが存在する事を強く示唆する。希少疾患はその症例数の少なさから疾患の発症メカニズムの理解や治療方法の開発等がcommon diseaseに対して遅れている事が多い。当科では未診断疾患イニシアチブ(IRUD)と協力し顎顔面形成不全を伴う未診断希少疾患の遺伝的原因の探索を進めてきた。これまでに未診断であった症例に対して全エキソーム解析による新規遺伝子変異同定により偽性副甲状腺機能低下症やBaraitser-Winter症候群等の確定診断を可能としてきた。いずれの症例においても過去に報告のない顎顔面の表現型を有しており、今後は希少疾患においても顎顔面所見の積極的な発信を行う事で未診断疾患における診断率の向上に貢献する事が可能であると考えられる。この様にして得られた遺伝子変異情報は適切なモデルを用いて機能解析を行う必要があり、当科においてもマウス、細胞株を用いた機能解析を行っている。また単一遺伝子疾患であると考えられている先天性無歯症、歯牙萌出不全については臨床の現場に応用可能な遺伝子検査アプリケーションの開発を行っている。本演題では矯正歯科臨床のチェアサイドから得られた情報をいかに基礎研究へと展開し希少疾患の診断や治療法開発に応用するのかを議論する。
休憩(10分間)
- 15:3018:30
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教育セミナー
発生生殖毒性専門家講習会
15:30-16:25塩田 恭子聖路加国際病院 女性総合診療部抄録
近年、生殖可能年齢でのがん患者、特に乳がん患者が増加している。また、一方で近年の晩婚化の傾向から、妊娠・分娩の高齢化が進んでいる。このような背景のもと、妊娠を将来考える前にがんに罹患をしてがん化学療法を施行することになった症例や妊娠中にがんがみつかり妊娠中にがん化学療法を行うことに至る症例が増加してきている。今回、がん化学療法と妊娠についての教育講演の機会を得た。1)がん化学療法による性腺機能低下と、それに対しての妊孕性温存治療、2)がん合併妊婦に対しての妊娠中のがん化学療法投与についての概略は以下である。当日はそれについての詳細について言及する。1)がん化学療法による性腺機能低下と妊孕性温存治療化学療法の投与により、卵子が直接障害されたり、卵子の成熟などに関与する卵子の支持細胞が障害されることにより卵子が破壊されたりすることで、卵子数が減少し妊孕性が障害される。これに対して、化学療法投与前に胚・卵子・卵巣組織を凍結保存する、化学療法の影響をできるだけ防ぐように卵巣保護をする、という妊孕性温存治療法がある。2)妊娠中の化学療法妊娠中のがん治療の原則は、胎児への不利益を最小限にしながら、母親に対して最善のがん治療を行うことである。がん治療を最優先するが故に胎児の安全が害されたり、胎児の安全性を最優先するが故に、母体のがん治療が不適切に行われるという状況は望ましくない。化学療法剤が胎児へ及ぼす危険性は、投与時期、薬剤の種類、投与量などによって変わるが、妊娠初期の投与は催奇形性の頻度が高いため避けるべきである。第2三半期、第3三半期での化学療法の投与は胎児への催奇形性への影響はほとんどなく、重篤な影響は来しにくい。そのため、妊娠中期以降に必要があれば妊娠中の化学投与を行う。一方で、分娩期に骨髄抑制の副作用が重なることを避けるため、妊娠35週以降は化学療法を分娩後まで延期する。
16:25-17:25市居 修北海道大学 大学院獣医学研究院 基礎獣医科学講座 解剖学教室抄録
胎子期において、頸部~仙骨部両側の中間中胚葉は、その頭側から順に前腎、中腎、後腎をそれらの存在時期を重複させながら発生し、機能する。一般的に、爬虫類、鳥類、哺乳類では、前腎と中腎に代わり後腎がいわゆる終生腎・永久腎となる。
前腎が退行し、中腎が排泄器官としての機能を残している時期に、中腎管の尾側部で尿管芽が分岐する。また、同時期に中腎後位で中間中胚葉が増殖・肥厚し、後腎芽体(後腎原組織、後腎間葉凝集体)を形成し、そこに尿管芽が入り込む。後腎芽体に接着した尿管芽は分岐し、腎杯を形成する。腎杯からは集合管が伸び、後腎芽体中に入り込む。集合管はさらに細管を分岐し、その細管の先端部周囲に後腎芽体の細胞は集簇する。この細胞集団から後腎小胞が分かれ、後腎小胞はその長さを増し、コンマ字体、S字体と呼ばれる形態を示して迂曲し、ネフロン(糸球体包、近位尿細管、薄壁尿細管、遠位尿細管)を形成し、その先端は集合管細管と結合する。糸球体包には血管が入りこんで毛細血管網(糸球体)を形成し、将来の糸球体包内壁と外壁に分かれ、腎小体が形成される。このような後腎は、初期では胎子の腰仙骨部付近にみられるが、発生の進行と共に、後腎に分布する血管をより頭側から分岐する血管と入れ替え、後腎は頭側方向に移動する(腎上昇)。
本講義ではヒトや動物の知見を基に前腎、中腎および後腎の発生について概説する。また、後半では腎臓の発生異常をヒトと動物で比較しながら考察したい。
17:30-18:25松本 清武田薬品工業株式会社 リサーチ プレクリニカル&トランスレーショナルサイエンス ストラテジックオペレーション抄録
医薬品開発において次世代への影響を評価する代表的な非臨床安全性試験として胚・胎児発生に関する試験(胚・胎児試験)がある。胚・胎児試験は通常、妊娠したラット及びウサギの胎児器官形成期に被験物質を投与し、妊娠末期に剖検することで、母動物に対する一般毒性学的及び生殖毒性学的影響を調べるとともに、胚・胎児に対する発育・形態形成・致死性への影響を評価する。上記のような胚・胎児に対する影響を臨床で確認することは基本的に不可能である。したがって、医薬品開発においては動物実験で、ヒトの胚・胎児への影響をどのように推定するかが重要となる。通常、適切な試験系及び試験デザインで胚・胎児試験が実施されていれば、胚・胎児への影響に関する追加試験は不要である。しかしながら、みられた影響をより詳細に解析することや追加の情報を得ることは、ヒトに対する外挿性や安全性をより正確に評価し、ヒトでのリスク低減や使用制限の緩和につながる可能性がある。ICH S5(R3)ガイドラインでは、リスクアセスメントの項で「回復性の有無による懸念の増大」、「母動物の二次的影響を判断するための実証」、「特定された生殖発生の影響の機序に関する詳細な知見がヒトへの外挿性につながる」といった追加情報の有用性に関する内容が言及されているものの、実際にどういったことを実施すればよいかについての具体的な記載はない。本講演では審査報告書等をベースに、医薬品開発の現場で実際に実施されている追加検討について紹介し、胚・胎児試験後の検討試験の必要性・重要性について考えたい。