【S8-4】母体の治療ニーズからみた医薬品使用時における適切な避妊の考え方
医薬品医療機器総合機構 医薬品安全対策第一部
生殖可能年齢にある女性が医薬品を使用するとき、その医薬品が将来の妊娠および出産に与える影響は回避される必要がある。医薬品を使用している間の妊娠を先延ばしにすることで、医薬品のリスクを回避する手段として用いられるのが避妊である。しかし一方で疾患によっては、避妊によって妊娠時期を先延ばしにしても薬剤の影響がなくなる時期が訪れるとは限らない。避妊が医薬品の使用において問題となることが多いのは、医薬品の投与目的が長期又は生涯の管理を要する疾患の場合である。この場合には、医師が適切な医薬品リスク評価と情報提供を行わなかった場合、リスク回避方法としての避妊という手段の単純な提示は、女性患者本人が人生設計において、子供を持つ選択肢を考える機会そのものを奪ってしまうことにもなる。産婦人科医師であれば身に染みて経験することであるが、妊娠の多くが女性本人にとって意図しない形で経験される。意図しない妊娠とは、必ずしも望まない妊娠を指すものではない。「世界人口白書2022」(国連人口基金)によれば、世界の妊娠の約50%は、女性にとって意図しなかったものであり、日本においては、限られた施設におけるデータではあるが、妊娠の29%が意図しないものであったとする報告がある(2012年、2施設における780妊娠のデータ)。医薬品による治療中の女性が、将来的には妊娠を望んでいる女性であっても、それが意図しない形であれば避妊もできず、適切な時期に妊娠に気付くこともできず、疾患をもつ母体及び胎児の双方にリスクを与える結果にもなる。生殖可能年齢の女性における診療においては、医薬品が妊娠に与えるリスクと避妊の必要性を伝えるのみに終わることなく、妊娠を望む場合には、いつ、どのように、何人こどもを持つのか、妊娠中の疾患管理方法といった、具体的で適切なコミュニケーションを妊娠前からとることが肝要である。