【S8-2】生殖細胞における遺伝毒性
製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
厚生労働省は、2021年10月に医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス案を出した。同案では、避妊に関しては、生殖発生毒性試験及び遺伝毒性試験の結果を参照するとしている。「遺伝毒性のある医薬品」とは、ICHガイダンスS2(R1)にて臨床使用時の遺伝毒性リスクがあると判断された医薬品と定義した。なお、染色体異数性誘発性のみを示す医薬品は、遺伝毒性のある医薬品の範疇には含めないとしている。この考え方は、GHSを含む一般的な「生殖細胞変異原性」の定義とは異なっており、異数性誘発性を避妊対応に含めない妥当性についても懸念がある。本シンポジウムでは、まず、生殖細胞における遺伝毒性について、定義、検出法ならびに「生殖発生毒性」における変異原性関与評価の困難性等について概説する。次いで、避妊を求めている遺伝毒性試験陽性医薬品の現状を確認するために、日本市場にある医薬品のうち、Ames試験あるいはin vivo小核(染色体異常)試験で陽性のものを抽出し、医薬品添付文書における記載の調査結果を報告する。抽出された49剤(Amesのみ陽性9剤、in vivo小核のみ陽性23剤、Amesおよびin vivo小核で陽性17剤)のうち、抗腫瘍薬が19剤を占めた。うち、14剤は生殖細胞変異原とされるもので、うち、8剤は遺伝毒性に基づく男性避妊に関する記載が認められたが、残りの6剤に、避妊に関する記載は認められなかった。生殖細胞に異数性を示す2剤では、その避妊対応に相違が認められた。これらの現状は、ガイダンス案の定める「遺伝毒性のある医薬品」の適切性に対する懸念ならびに今後の医薬品添付文書整備の必要性を示している。なお、本発表に医学的倫理的側面に配慮すべき事項はない。