【S6-3】未診断患者のゲノム解析による新規疾患の同定を通じた先天異常の病因の解明
慶應義塾大学 医学部 臨床遺伝学センター
1927年にMullerがショウジョウバエの生殖細胞への放射線照射によって人工的に突然変異を生じさせることに成功した。次世代のショウジョウバエの形態や行動異常(広義の先天異常)のマッピングにより、多くの先天異常の原因遺伝子が同定された。ヒトにおいては人工的な突然変異の誘導は不可能であり、低頻度に自然発生する先天異常の患者の網羅的ゲノム解析を通じて、変異の検出を試みることとなる。われわれは2000名を越える先天異常の患者および両親の解析を通じて10以上の新規疾患とその原因遺伝子の発見に成功した。PDGFRBおよびCDC42機能亢進型変異については、国内外で10名以上が同定され、それぞれKosaki Overgrowth syndromeおよびTakenouchi-Kosaki syndromeとして確立された。既に国際的な患者会や治療研究のための国際コンソーシアムが形成されている。上記2新規疾患については自験例のゲノム解析を契機に発見された。さらに効率的に新規疾患の同定を図るために国内で「未診断疾患イニシアチブ」が結成され、NSF1異常症(シナプス顆粒の分泌異常)、LSR異常症(Tricellular junctionタンパクの異常症)、CTR9異常症(幹細胞の多分化能の維持)が発見された。国際共同研究により、CDK19異常症・YY1異常症・AFF3異常症が発見された。モデル生物研究者との連携によりヒトで同定された遺伝子変異の機能的な意義の証明が進んだ。NSF異常症ではショウジョウバエモデルが、CTR9異常症およびCDK19異常症ではゼブラフィッシュモデルが、PDGFRB異常症ではマウスモデルが有効であった。今後も、先天異常の患者のゲノム解析を用いた候補遺伝子の同定とモデル生物を用いた検証の組み合わせにより、先天異常の新たな発症機序が解明されると期待される。