【S5-5】胎盤部トロホブラスト腫瘍の遺伝子解析から推察されたトロホブラストの新たな特性
金沢大学 医薬保健研究域医学系 産科婦人科学
胎盤部トロホブラスト腫瘍(Placental site trophoblastic tumor: PSTT)は極めて稀な絨毛性疾患で、子宮の母体血管に浸潤する絨毛外トロホブラスト(EVT)をその起源とする。父親由来の抗原性を有しているものの妊娠終了後も免疫的に排除されず残存して悪性化したと考えるが、その発生メカニズムは未解明である。我々は最近経験した子宮外転移を有した化学療法抵抗性PSTTの2症例に対して、本邦で初めて免疫チェックポイント(PD-1)阻害剤であるペムブロリズマブを使用したところ、両症例ともに著効を示したものの第1症例は残念ながらペムブロリズマブの休薬後に突然の急激な再燃で死亡した。2症例に共通の病理所見として腫瘍細胞による免疫グロブリンの産生が観察されたため第1症例で遺伝子解析を行ったところ、再発を繰り返すにしたがって再発病巣のV(D)J遺伝子再編成パターンが増加することが示された。さらにSNVを用いて母方および父方アレルを解析したところ、児に継承されなかった「非遺伝性の母方対立遺伝子Daughter-Non-Inherited Maternal Allele:DNIMA」が腫瘍細胞内に検出され、母親細胞由来のDNIMAがPSTTのDNAにintegrateされていることが判明した。また追加したシングルセルの全ゲノム解析から全染色体の広範囲にわたって母親細胞由来DNAが取り込まれていることも明らかとなり、DNIMAがintegrationされた機序として母親の免疫細胞との細胞融合が考えられ、この細胞融合によりPSTTが免疫細胞から免疫回避を含む新たな機能を得た可能性が推察された。これらの知見は癌細胞の免疫回避機構や免疫治療に対する抵抗性獲得機序の解明の端緒となるのみならず、トロホブラストの新たな特性も示唆しているためその解析結果を報告する。