【S5-4】胎盤を介した母胎間シグナルリレー機構の解析
1)金沢医科大学 一般教育機構 生物学
2)金沢医科大学 医学部 解剖学I
3)Department of Obstetrics, The First Hospital of China Medical University
2)金沢医科大学 医学部 解剖学I
3)Department of Obstetrics, The First Hospital of China Medical University
白血病抑制因子(LIF)は、着床や胎盤形成、胎児の発生過程で重要な役割を果たすことが知られている。我々はこれまでに、胎児の大脳皮質形成にLIFシグナルが重要であることを明らかにし、さらにそのシグナルについて、母体LIFが胎盤からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌を介して胎児LIFを誘導するしくみを提唱してきた(母胎間シグナルリレー)。本シンポジウムでは、母体LIFが胎盤栄養膜細胞に作用してACTHの分泌を促進する機構を中心に概説する。 脳下垂体のACTH産生細胞においては、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)に加えて、LIFによりACTH産生が促進されることが報告されている。ラット胎盤栄養膜細胞由来の培養細胞にLIFを添加するとACTHが誘導されたが、この過程にCRHが関係するのかどうかは不明であった。CRHは、従来ヒトを含む霊長類胎盤には発現が認められるが、齧歯類胎盤では発現しないと考えられていた。しかし最近、マウス胎盤でのCRH発現報告が散見され、我々の解析でもマウスで胎齢13.5日をピークとして胎盤栄養膜細胞で発現を認め、それは母獣へのLIF投与により増強された。さらにmouse trophoblast stem cell(mTSCs)培養系でも、分化に伴いCRHの発現が上昇し、LIF添加でさらに増強された。この培養系で、各種阻害剤を用いた解析を進めたところ、ACTH分泌促進はLIFの直接的な作用により、一方ACTH産生促進はLIFで誘導されたCRHを介したautocrine/paracrine経路により起こることが示された。胎盤CRHは、ヒトでは分娩のタイミングの制御に関わるとされるが、マウスでは胎児の発生制御に重要である可能性が示された。 こうしたしくみは、母体感染時の免疫亢進による胎児脳形成障害と密接に関わっていると考えられ、この点についても考察する。