【S5-3】細胞膜ペプチダーゼによる胎盤形成機構
金沢大学医薬保健研究域医学系医学類 生殖・発達医学領域産科婦人科学
トロホブラストの浸潤はヒト胚着床や胎盤形成において重要な過程の1つであり、中でも絨毛外トロホブラスト(EVT)は母体の子宮ラセン動脈に沿って子宮筋層内まで浸潤する。これらの血管の内皮と筋層が絨毛外栄養膜細胞で置き換わることにより初めて十分量の胎児への胎盤血流が保たれるため、EVTの子宮内への浸潤は妊娠の維持に必須の現象である。この機構の障害は妊娠の後半期において妊娠高血圧症候群をきたすとされており、母体血管の再構築機構の解析は妊娠高血圧症の発症機序の解明のみならず、その早期診断や早期治療法の開発に繋がると期待される。一方でEVTの浸潤は癌細胞と異なり、子宮筋層内で停止する。このようなEVTの浸潤停止機構の解明は新しい癌の浸潤抑制治療の開発にも貢献する可能性がある。またEVTは他人の細胞であるにも関わらず母体は免疫学的に受け入れ、自己の子宮動脈への浸潤は許容しつつも、その浸潤を制御している。我々はこのようなEVTの浸潤制御機構にケモカイン/ケモカイン受容体、およびケモカインを細胞表面で代謝する細胞膜結合型のペプチダーゼが関与していることを明らかにしてきた。さらにEVTに特異的に発現している新しいペプチダーゼ“laeverin”を発見してこの遺伝子構造を決定したが、最近この分子が免疫細胞からのケモカイン産生を介してEVT-母体免疫細胞間のクロストークに役割を演じている可能性を見出したのでこれを報告する。なお臨床検体の採取と研究利用に関しては本人の承諾および医学倫理審査委員会の承認のもとに施行した。