【S5-2】Bmal1時計遺伝子欠損マウスにおける胎盤形成不全
金沢大学 疾患モデル総合研究センター 疾患モデル分野
概日リズムは視床下部の中枢時計と各臓器の末梢時計が同期して形成され、体温・血圧やホルモン分泌などの生理機能を調節している。一方で女性は月経周期という月単位の生殖リズムを有している。これまで我々は女子学生の朝食欠食やダイエットなどの空腹ストレスが月経痛を誘導する可能性を報告してきた。さらにマウスを用いた検証で不規則な朝食摂取による空腹ストレスが時計遺伝子の機能異常を誘発することを観察し、「異常な空腹ストレスが子宮末梢時計システムを介して産婦人科疾患の発症を誘導する」との仮説を提唱するに至った。そこで本研究では上記仮説の後半部である子宮の生殖機能に対する子宮時計遺伝子の役割を検討する目的で、プロゲステロン(P4)受容体-creを用いて、時計遺伝子群の中でもコア遺伝子とされるBmal1を子宮特異的に欠損させたマウス(cKO)を作成し,その妊孕性について検討した。その結果、妊娠6日目の胚着床はcKOマウスでも正常に観察されたが、その後着床部位の吸収や胚の成長遅延などの病的な状態を呈し、最終的に全例が流死産に至り生仔を得られなかった。cKOマウスの子宮を組織学的に解析すると、妊娠8日目には脱落膜化部位の縮小、血管新生の阻害および胚の吸収が示され、また妊娠12日目には胎盤の形成不全と母体血管床の減少が観察され、胎盤血流障害の存在が推察された。さらに胎盤組織における子宮NK細胞の発現様式も変化していた。一方で妊娠cKOマウスにP4を補充すると、胎盤の構造異常は改善されないものの母体血管床が増加し、生仔を得られる個体が観察された。以上の知見から子宮時計遺伝子が子宮の生殖機能に重要な役割を演じていること、およびP4補充が構造異常を有する胎盤の機能改善に有効である可能性が示された。なお本研究で行われた動物および遺伝子組み換え実験は、金沢大学の各倫理審査委員会の承認を得て行った。