
【S5-1】生殖臓器透明化マウスの解析
金沢大学附属病院 周産母子センター
組織透明化技術は蛍光標識と光シート顕微鏡による解析を併用することにより、組織を切片化することなく全体像をデジタル化して3D像や任意の2D像として描出できる点に特徴があり、特に脈管系や神経系の連続するネットワーク構造の立体的な解析に有益とされる。今回我々は蛍光を発する遺伝子改変(CAG-EGFP)マウスを用いて本技術を女性生殖臓器に応用してその有用性を検討したので報告する。まず還流固定時に核染色を加えたCUBIC変法を開発してCAG-EGFPマウスの卵巣を透明化した。卵巣内のEGFP蛋白発現はほぼ均等に観察されたが、その蛍光強度は組織の構成細胞によって顕著な差が認められた。特に顆粒膜細胞において蛍光シグナルが減弱していたため卵胞内にコントラストが生じて卵母細胞の観察が容易であった。その結果光シート顕微鏡により卵巣組織全体の卵母細胞の分布が正確に解析できることが示された。次にCAG-EGFPマウスの非妊娠子宮組織を透明化した。子宮では子宮内膜のEGFPの蛍光シグナルが減弱しており、一方で子宮筋細胞のシグナル強度は高かったため筋層走行の3D構造が明瞭に観察された。その結果内輪筋と外縦筋の間に両筋層をメッシュ状に連結する中間層の存在が新たに示された。さらにこの中間層は自律神経と子宮筋を介在するテロサイトを有しており、両筋層の協調的な収縮運動を制御している可能性が示唆された。さらに野生型メスマウスとCAG-EGFPオスマウスを交配させ妊娠した子宮組織を胎児と胎盤を含んだ状態で透明化した。その結果3D像や任意の2D像でfeto-maternal interface部位の観察が可能となり、子宮内膜内に浸潤している蛍光シグナル陽性の栄養膜細胞を単細胞解像度で空間描出できた。さらにその情報をもとに透明化組織から任意の断面で組織切片を作成し、組織染色による解析を追加できることが示された。