【S4-4】母胎の環境要因と仔の脳機能の発達のかかわりを紐解く
近畿大学 理工学部 生命科学科
細胞動態が活発な胎生期の脳神経系は、化学物質やストレス曝露、感染症の罹患などの環境要因に対して高感受性であり、この時期の神経細胞への影響は、先天奇形や脳機能異常の原因となりうる。例えばエタノールの胎児期曝露は、発達障害を伴う胎児アルコール症候群を誘発する。その脳内では、発達障害の原因の一つである大脳皮質の形態形成の異常を、ミクログリアの異常な活性化を伴なう脳内炎症が、直接、あるいは間接的に神経細胞の増殖や分化、投射に異常を誘発することで引き起こしている。一方、この脳内炎症はエタノール特有のものではなく、様々な環境要因によって幅広く起きており、発達期の神経回路の構築にも関与するミクログリアの機能異常は、自閉症の潜在的な発症原因となりうる。ただ、これらの疾患への関与は生後から成熟後にかけてであり、胎児期のミクログリアの異常と先天奇形や脳機能障害との相関については不明な点が残っている。そこで、母胎環境が胎児期のミクログリアの異常を誘発し、それが先天異常や発達障害に関連する可能性に着目した。様々な胎児期環境因子曝露モデルマウスを用いた解析を行い、成熟後の活動量や社会的相互作用の異常だけでなく、発達段階特異的な活動量の亢進を検出した。さらに、成熟後に拘束ストレスを負荷したところ、活動量に変化が見られた。並行して、胎児期、新生児期に神経新生の亢進や、分化段階特異的な形態的異常を検出した。これらことから、胎児期に脳内で引き起こされた異常が、発達期および成熟後の行動やストレス応答に影響していると考えられる。さらにこれらの異常が検出された胎児の脳内で、ミクログリアが増加し、炎症関連因子の発現も変動していることを明らかにした。この脳内炎症が発達障害様の行動異常や大脳皮質の形態形成の異常の原因であると仮定し、抗炎症剤の並行投与によって、その異常を抑制できる可能性についても報告する。