【S4-3】ゼブラフィッシュ胚における化学物質が引き起こす神経堤細胞異常と頭蓋顔面奇形
花王株式会社 安全性科学研究所
頭蓋顔面奇形は頻発する先天異常の一つである。その原因には遺伝要因や化学物質などの環境要因の影響が指摘される。しかし化学物質による頭部顔面奇形の発症機序の多くは不明である。我々はゼブラフィッシュ胚をモデルに、化学物質による頭蓋顔面奇形発症機序を解析してきた。哺乳類で頭蓋顔面奇形を誘発する12種の化学物質を暴露すると、ゼブラフィッシュ胚の神経頭蓋と顔面頭蓋の形態異常が見られ、これらは頭蓋の軟骨細胞数の減少とその分化・成熟異常に起因していた。また頭部神経堤細胞マーカー遺伝子の発現変動が見られた。つまり化学物質による頭蓋顔面奇形は、頭部神経堤細胞の発生・分化異常という哺乳類と同じ機序で生じると考えられた。本結果を踏まえ、神経堤細胞を視覚化するTg(sox10:EGFP)を作製し、その挙動を詳細に解析した。本発表では頭部神経堤細胞の挙動と化学物質の影響を紹介する。さらに本モデルの応用可能性を検討すべく、発症頻度が高い口蓋裂に着目した。化学物質による口蓋裂発症機序の多くは不明であり、催奇形性評価モデルが無い。哺乳類で口蓋裂を生じる化学物質を暴露した結果、全ての化学物質で口蓋部位に亀裂が生じ、口蓋裂様の症状を再現できた。これらの口蓋では細胞増殖の低下と細胞死の増加が見られた。口蓋裂の原因にWntシグナル異常が知られるため、化学物質で生じる口蓋裂との関連を調べた。その結果、口蓋裂を発症したゼブラフィッシュ胚ではWntシグナルが減弱し、更にWntアゴニストでWntシグナルを活性化すると口蓋裂が回復された。つまり化学物質で生じる口蓋裂は、Wntシグナルの減弱を介した細胞増殖/アポトーシスのバランス崩壊であると考えられた。本モデルが口蓋裂発症原因の一つの遺伝要因と環境要因の相互作用解析に応用可能と期待している。今後は臨床情報やモデル生物の情報を統合し、ゼブラフィッシュ胚を用いた疾患モデルの確立や催奇形性評価に繋げる。