【S3-4】ゲノム編集を用いた先天性疾患モデル動物の作出と解析
自治医科大学 分子病態治療研究センター 再生医学研究部
近年のゲノム編集ツールの発展は目を瞠るものがある。特にRNA依存的ヌクレアーゼであるCRISPR/Cas9の登場により、受精卵に対して直接ノックアウトや部位特異的ノックインすることが可能になり、今までにないスピードで任意の遺伝子異常を持つ先天性疾患モデル動物の作出が可能になった。我々の研究室ではこれまでに免疫不全動物(マウス・ピッグ)や心筋症患者で見つかった遺伝子変異を持つマウスモデルを作出してきた。これらの経験から本シンポジウムではゲノム編集に付随するいくつかの問題を共有したい。X染色体にあるIl2rg遺伝子をノックアウトするとX連鎖型重症複合免疫不全症(X-SCID)となることが知られている。我々は新規X-SCID系統をCRISPR/Cas9を用いて作出した。そのうちの1系統ではExon 2に7塩基の欠失があるにも関わらず、Il2rgタンパクの発現を認めた。ゲノム上の欠失が必ずしも表現型にならない例であり、ノックアウト系統を作出する際にはタンパクレベルでの発現を確認する必要性を示唆している。最近のゲノム編集効率は非常に高く、容易にホモ編集個体が得られ、むしろヘテロ編集個体を得ることの方が難しい。結果的に免疫不全動物や心筋症あるいは心臓奇形を有するモデルは胎生期あるいは生後致死となってしまうことがある。そのようなモデルでは、F0ですぐに解析を行うか、生まれてきた動物の生存期間を延長させる工夫が求められる。生殖工学技術を持ち、ゲノム編集に取り組んでいる研究室では、新しいマウス系統の作出はルーチン作業となっている。一方で作出されたマウス系統の解析はルーチン化することは難しく、専門性を持つ研究室での解析が求められ、ボトルネックとなっている。いかにここを加速するのかが今後問われることになるだろう。