【S3-3】多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチの胚子発生機構の解析
東京農工大学 大学院 農学研究院
多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチ(Copidosoma floridanum,トビコ)は、1mmに満たない小さな昆虫である。トビコは、寄主であるキクキンウワバ(Thysanoplusia intermixta)などヤガ科キンウワバ亜科の卵内に産卵する。寄主に産下されたトビコ卵は、桑実胚の段階に達すると、寄主の胚子発生期間に寄主組織に損傷を与えることなく寄主体内に侵入する。トビコ胚子が寄主体内に定着すると、1つの胚子が2000もの同一遺伝子を持つ胚に分裂し、多胚化する。その後、それぞれが役割の異なるクローン個体として発生する。すなわち、子孫を残す繁殖幼虫と他を攻撃・排除する兵隊幼虫へ発生し、これらがカーストを構成する。しかし、トビコが1つの胚子から2000もの多胚に分裂する仕組みについては、未解明であった。この理由として、トビコの遺伝子機能アノテーションが不完全であったため、これまでトランスクリプトーム解析による網羅的な遺伝子発現解析が十分に行われて来なかったことが挙げられる。一方で、トビコは培養下で2細胞期から多胚形成まで発生誘導が可能である。さらに当研究室において、幼若ホルモン(JH)の添加により多胚形成を促進する系を確立した。トビコ胚子培養において、JH添加による多胚形成までの時間差を利用したトランスクリプトーム解析が可能となれば、トビコの多胚形成を制御する遺伝子群を見出すことが可能である。本講演では、トビコでの遺伝子発現解析手法の構築により、多胚形成を制御する遺伝子群の同定を行なった研究事例を紹介する。また、ヒトの多胚形成の仕組みを解析するモデルとしてトビコの利用可能性についても議論したい。