【S3-2】マウスおよびツパイを用いた生殖補助医療技術の研究
金沢医科大学 総合医学研究所
近年、日本をはじめ先進国における少子化が進むなかで、精子の質と量の低下や不育症の増加など、原因不明の不妊が増えてきている。このような現象は、ヒトだけではなく、ウシなどの家畜や野生動物でも広く確認されており、『生殖科学における地球規模の課題(Findlay, Reproduction 2019)として問題提起されている。この人類共通の重大な課題について、提言のなかでは体外受精や顕微授精、胚移植技術などの生殖補助技術の高度化が有効であると指摘している。例えば、胚移植の際に母体に戻す胚の『品質(embryo quality)』を向上させることで妊娠が成立する可能性を引き上げることなどが挙げられている。この胚の品質の向上のためには、より品質の高い胚のスクリーニング方法の開発、タイムラプスイメージングインキュベーターなどの胚の体外培養技術の改善による胚品質の向上を目指した研究が重要であるとされており、世界各国で研究が行われている。われわれは、最近マウス受精卵膜上にグリシンレセプターα4(Glra4)が発現しており、母体卵管液中のグリシンと作用することで初期発生に影響を及ぼしていることを報告した(Nishizono, Reproduction 2020)。このシステムはヒト、ウシにも保存されていることも示唆されている。一方で、ヒトにおいてGlra4は偽遺伝子であり、代わりにα2サブユニットが発現している。このように、マウスは優れたモデル動物ではあるものの、生殖補助技術開発研究においては必ずしもヒトの表現型を再現していない場合がある。そこでわれわれは、進化的にヒトとマウスの中間にあり、感染症研究や神経科学研究などで用いられている非モデル動物・ツパイ(tree shrew)を用いて生殖補助技術開発の研究を開始している。今回はこれらモデル動物、非モデル動物を用いた研究について討論したい。