【S2-2】ナノスーツ法を用いた光-電子相関顕微鏡法(CLEM)の先天異常解析への応用
浜松医科大学 光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部
先天異常研究の中で形態観察は重要な位置を占め、肉眼的観察からはじまり、顕微鏡レベルに解析は及ぶ。今後網羅的なゲノム情報が加わった形態情報はより重要になると予想される。組織解析では光学顕微鏡で同定した部位をより高倍で観察する必要が生じることがあり、電子顕微鏡観察は不可欠である。そのとき光学顕微鏡で同定した部位を非破壊的かつ同じ切片で電子顕微鏡観察できること(光-電子相関顕微鏡法(Correlative Light and Electron Microscopy (CLEM))が近年求められ、技術開発が進んでいる。 高真空を必要とする電子顕微鏡では、水分を含む生物試料の形状を維持させながら固定・脱水するという長い時間の工程が必要だった。NanoSuit法は、生物適合性高分子溶液を使用して、生物試料周辺にナノ薄膜を、短時間に形成させ、生きたまま濡れたままの生物試料を観察するという技術であり、試料そのものの形状を観察できる。 NanoSuit-CLEM法ではまずH&E染色、免疫染色を施した組織切片を準備する。その後光学顕微鏡で興味のある病変を同定・マーキング後、カバーガラスを外す。その切片にNanoSuit溶液塗布を行い、位置情報を付与後に走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。この方法により含水状態の組織切片の微細構造、病原体(真菌、原虫、細菌、ウイルス)、免疫染色後の特定抗原発現部位(DAB染色部位)や沈着物質の元素分析も可能となった。NanoSuit-CLEM観察法は切片を破壊することなく観察できるため、過去の貴重な症例や現在手に入りにくい標本などへの応用が期待できる。今後は100年以上の歴史のある光学顕微鏡で得られた組織学的情報に、立体的かつ高分解なSEM情報や元素分析情報が加わることが期待される。今回紹介する方法が新たな先天異常の形態情報の発見やメカニズムの解明につながる可能性がある。