【S1-3】Sonic hedgehogシグナルと上顎・頭蓋底の形態形成について
1)順天堂大学 医学部 解剖学・生体構造科学講座
2)東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野
2)東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野
Sonic hedgehog (Shh)やその下流因子の発現異常は頭蓋顎顔面の様々な形態異常を引き起こすが、Shhを全身で欠失させた変異マウスは頭部全体がほぼ形成されないため、Shhの役割の詳細については不明な点が多い。本研究では頭部領域で組織特異的にShhを欠失させた2種類の変異マウス胎仔の頭部形態を調べた。主に前脳腹側の神経上皮でShhを欠失させたマウス(Sox1-Cre;Shhfl/fl)では、頭蓋底、眼窩、鼻殻、前上顎骨等の形成が異常であったが、口蓋、下顎骨や耳小骨はほぼ正常であった。脳が左右非対称であり、眼球や嗅球の顕著な形成不全が見られたことから、頭蓋顎顔面における異常の多くは脳の発生異常に付随すると考えられた。前脳腹側の神経上皮と口腔・咽頭上皮でShhを欠失させたマウス(Isl1-Cre;Shhfl/fl)では、下顎骨、耳小骨や口蓋骨が完全消失し、蝶形骨を由来する梁軟骨を含む中頭蓋窩が縮小していた。上顎骨、前上顎骨や鼻骨にも形成異常が認められた。Isl1-Cre;Shh fl/flマウス胎齢10.5-11.5日胚では内外側鼻隆起・上顎隆起の癒合部で著明な細胞死が生じていた。胎齢11.5日胚の内外側鼻隆起・上顎隆起の癒合部のRNA-seqより、Isl1-Cre;Shh fl/flマウスではSatb2(Special AT-rich sequence-binding protein 2)の発現低下が上顎遠位部の形成不全の一因と考えられた。またIsl1-Cre;Shhfl/flマウスでは梁軟骨形成部位の間葉における細胞死は見られなかったが、終脳の複数部位における細胞死が終脳の形態異常を引き起こし、梁軟骨形成に不可欠な間葉の集積を阻害している可能性が示唆された。これら2種類のShh組織特異的欠失マウスの頭部形態の解析結果より、神経上皮のShhは脳形成を通じて頭蓋底・上顎形成に大きく影響するが口蓋形成への関与は限定的であること、口腔・咽頭上皮のShhは頭蓋底形成には関与せず、上顎遠位部、口蓋や下顎全体の形成に関与すると考えられた。