【S1-2】異形歯性を制御するホメオボックスコードの解明
東北大学 大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野
顎の基部-先端部軸に沿って異なる形態・機能の歯が生える異形歯性は、哺乳類の特徴の1つである。発生過程において下顎および上顎はそれぞれ下顎突起、上顎突起と内側鼻隆起の融合によって形成されるが、この時ホメオボックス遺伝子群が基部-先端部軸に沿って異なる領域に発現することがどのタイプの歯が発生してくるのかを決定しているとされる(ホメオボックスコード)。しかし、これまで異形歯性の研究に用いられてきたマウスは切歯と臼歯しかないため、ヒトを含めた基盤的な歯式を持つ動物でどうなっているのか、犬歯や前臼歯に対応するコードはどうなっているかなど、不明な点が多かった。そこで、すべての歯のタイプを持つオポッサムおよびフェレットについてホメオボックスコードを調べ、マウスと比較した。その結果、これまで臼歯と対応するとされていたBarX1遺伝子が切歯や犬歯と対応するとされていたMsx1遺伝子が同時に発現している領域がこれらの動物にはあり、前臼歯をコードしていることや、BarX1やAlx4が発現していないがMsx1が発現している領域が犬歯をコードしていることが明らかとなった。また、マウスの下顎ではBarX1-Msx1共発現領域がほとんど存在せず、この部分が欠損している可能性が示唆された。ヒトの家族性の部分性歯欠損症においてMsx1遺伝子の変異が見つかっていることからも、Msx1遺伝子の機能や発現制御機構が異形歯性にとって重要であることが明らかである。そこで、Msx1遺伝子の顎原基における発現制御メカニズムを解析しており、その成果についても触れる予定である。