
【S1-1】低酸素環境による大脳発生制御
金沢医科大学 一般教育機構 生物学
我々ヒトを含む有胎盤類では、受精卵が子宮内膜内に着床するため極めて低酸素な環境で胚発生が進行する。また、母体血からの酸素供給が開始した後も、多くの組織内が低酸素状態であることが知られている。これまでの研究から、低酸素応答のマスターレギュレーターであるHif1αの全身性欠損マウス胚が、心血管や体節、神経管などの形成不全により胎生致死を示すことが明らかとなっている。これらのことから、有胎盤類の胚は、低酸素環境を利用したユニークな器官形成プログラムを進化の過程で獲得したと考えられている。我々は、低酸素依存的な大脳発生プログラムの解明を目指し、中枢神経系特異的なHif1α欠損マウス(Hif1α-cKO)を作製した。Hif1α-cKOマウスは大脳の著しい低形成を示し、生後24時間以内に死亡した。組織学的な解析により、Hif1α-cKOマウスの大脳新皮質ではニューロン、特に深層ニューロンがアポトーシスにより減少していることがわかった。また、このアポトーシスにより、浅層ニューロンの移動に異常が生じ、大脳新皮質の層構造形成に乱れが生じていることが明らかとなった。さらに、in utero electroporation法を用いたsFlt1強制発現により、Vegfシグナル経路がHif1αの下流で深層ニューロンの生存維持に関与することがわかった。本研究から、胚発生期の酸素濃度の変動が、大脳新皮質の形成に大きな影響を与える可能性が示唆された。