【ES-1】がん化学療法と妊娠 -妊孕性温存治療から妊娠中の管理まで-
聖路加国際病院 女性総合診療部
近年、生殖可能年齢でのがん患者、特に乳がん患者が増加している。また、一方で近年の晩婚化の傾向から、妊娠・分娩の高齢化が進んでいる。このような背景のもと、妊娠を将来考える前にがんに罹患をしてがん化学療法を施行することになった症例や妊娠中にがんがみつかり妊娠中にがん化学療法を行うことに至る症例が増加してきている。今回、がん化学療法と妊娠についての教育講演の機会を得た。1)がん化学療法による性腺機能低下と、それに対しての妊孕性温存治療、2)がん合併妊婦に対しての妊娠中のがん化学療法投与についての概略は以下である。当日はそれについての詳細について言及する。1)がん化学療法による性腺機能低下と妊孕性温存治療化学療法の投与により、卵子が直接障害されたり、卵子の成熟などに関与する卵子の支持細胞が障害されることにより卵子が破壊されたりすることで、卵子数が減少し妊孕性が障害される。これに対して、化学療法投与前に胚・卵子・卵巣組織を凍結保存する、化学療法の影響をできるだけ防ぐように卵巣保護をする、という妊孕性温存治療法がある。2)妊娠中の化学療法妊娠中のがん治療の原則は、胎児への不利益を最小限にしながら、母親に対して最善のがん治療を行うことである。がん治療を最優先するが故に胎児の安全が害されたり、胎児の安全性を最優先するが故に、母体のがん治療が不適切に行われるという状況は望ましくない。化学療法剤が胎児へ及ぼす危険性は、投与時期、薬剤の種類、投与量などによって変わるが、妊娠初期の投与は催奇形性の頻度が高いため避けるべきである。第2三半期、第3三半期での化学療法の投与は胎児への催奇形性への影響はほとんどなく、重篤な影響は来しにくい。そのため、妊娠中期以降に必要があれば妊娠中の化学投与を行う。一方で、分娩期に骨髄抑制の副作用が重なることを避けるため、妊娠35週以降は化学療法を分娩後まで延期する。