第2日目 – 2022年7月30日 土曜日
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特別公演1大谷 浩島根大学 理事・副学長
抄録
先天異常の臨界期は、臓器の形づくりの時期である器官形成期とされ、本学会で論じられるのもこの時期に起因する「形」の異常である。一方、臓器の「大きさ」は胎児期から生後数年までの組織形成期(器官形成期にできた組織幹細胞から臓器特異的な細胞が分化し構築化して機能が生じる時期)に決まるが、無形成のような極端な例以外は問題にされない。しかし、実質臓器は、腎臓のネフロンのような機能構造的単位の集合体だから、臓器の「大きさ」は単位の総数に比例し、したがって臓器の予備能を含む機能の総量と比例する。年齢とともに単位数は単調減少し、予備能が枯渇して機能が閾値以下になると臓器の機能不全、各臓器を場とする疾患が起こる。演者らは、京都コレクションの胎児の臓器の計測により、身体の大きさが同じ胎児でも、臓器の「大きさ」に2倍以上もの個人差があることを報告してきた。組織形成終了時のその後生涯を支える「健康資産」としての臓器機能の総量におけるこの大きな個人差は、潜在的な疾病素因としてDOHaDの重要な要因となりうると考えられる。しかし、臓器の大きさの調節機構はいまだ不明である。演者らは、神経幹細胞の増殖分化調節機構として脳の大きさの調節に関わるinterkinetic nuclear migration (INM)が、器官形成期における全身の上皮管腔組織の組織幹細胞に存在することを明らかにしてきた。そしてINMが臓器、臓器の部位、発生時期に特異的なパターンで調節されることにより、臓器の組織幹細胞の総数の調節を介して臓器の大きさの調節に関わることが分かってきた。すなわち、形づくりの時期とされる器官形成期に総組織幹細胞数が調節され、それに続く組織形成期にできる臓器の大きさを介して、DOHaDに関わると考えられる。このように器官形成期と組織形成期を重層的にDOHaDとも関連付けた「胎児科学」の視点から統合的に観ることが、先天異常の生涯的な理解のために重要である。
座長:八田 稔久金沢医科大学解剖学Ⅰ
休憩(10分間)
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シンポジウム2
「正常と異常を顕かにするイメージング技術」座長:高桑 徹也京都大学大学院医学研究科人間健康科学系
河崎 秀陽浜松医科大学光尖端医学教育センターナノスーツ開発研究部
9:50-10:10坂田 ひろみ金沢医科大学 解剖学1抄録
我々が開発した小型魚類とアフリカツメガエルでの迅速全身骨染色法(RAP-B)は、内臓、皮膚、筋肉を除去することなく、極めて透明度の高い骨格標本を短時間で作製することができる。RAP-Bはマウス・ラット胎児や体毛のある成獣マウスでのホールマウント骨染色標本の作製に応用できることも示してきた。RAP-Bの根幹をなす技術は透明化固定液(RAP-FIX)による迅速組織透明化法(RAP)である。 RAP-FIXは、試料の固定、脱色、透明化を同時に行い、皮膚や筋肉を除去することなく、極めて透明度の高い標本を作製することを可能にした。また、RAP-FIXは、アルカリ性溶液でありながら、長時間浸漬しても組織破壊が生じない点がこれまで骨染色に用いられてきた透明化溶液と一線を画すものである。また、透明化促進液(RAP-ENH)による処理や高屈折率マウント剤の使用により、処理時間の短縮や、透明化できる標本の大きさや種類の適用を広げることができる。RAPによる組織透明化は、組織破壊を伴わずに軟部組織を透明度の高い状態にすることができるため、透明化後の標本は共焦点レーザー顕微鏡や蛍光ズーム顕微鏡を用いた深部観察が可能である。また、透明化した小型魚類やマウス・ラット胎児のホールマウント標本、および成獣マウス・ラットの各種臓器のホールマウント標本や厚切りスライス標本に核染色剤、抗体、および種々のトレーサー等を用いた標識を施すことで、標識された構造の空間配置の描出と解析にも応用できる。標識された構造の空間配置が簡便に描出できる本法は、正常構造の把握だけでなく、形態異常や病変部における血管や神経の走行や、その他の構造・物質の局在の観察に有用な手法である。本講演では、ゼブラフィッシュ、マウス胎児、およびマウス成獣の各種臓器のホールマウント標本と厚切りスライス標本で、RAPによる組織透明化の応用例と3Dイメージングを紹介する。
10:10-10:30河崎 秀陽浜松医科大学 光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部抄録
先天異常研究の中で形態観察は重要な位置を占め、肉眼的観察からはじまり、顕微鏡レベルに解析は及ぶ。今後網羅的なゲノム情報が加わった形態情報はより重要になると予想される。組織解析では光学顕微鏡で同定した部位をより高倍で観察する必要が生じることがあり、電子顕微鏡観察は不可欠である。そのとき光学顕微鏡で同定した部位を非破壊的かつ同じ切片で電子顕微鏡観察できること(光-電子相関顕微鏡法(Correlative Light and Electron Microscopy (CLEM))が近年求められ、技術開発が進んでいる。 高真空を必要とする電子顕微鏡では、水分を含む生物試料の形状を維持させながら固定・脱水するという長い時間の工程が必要だった。NanoSuit法は、生物適合性高分子溶液を使用して、生物試料周辺にナノ薄膜を、短時間に形成させ、生きたまま濡れたままの生物試料を観察するという技術であり、試料そのものの形状を観察できる。 NanoSuit-CLEM法ではまずH&E染色、免疫染色を施した組織切片を準備する。その後光学顕微鏡で興味のある病変を同定・マーキング後、カバーガラスを外す。その切片にNanoSuit溶液塗布を行い、位置情報を付与後に走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。この方法により含水状態の組織切片の微細構造、病原体(真菌、原虫、細菌、ウイルス)、免疫染色後の特定抗原発現部位(DAB染色部位)や沈着物質の元素分析も可能となった。NanoSuit-CLEM観察法は切片を破壊することなく観察できるため、過去の貴重な症例や現在手に入りにくい標本などへの応用が期待できる。今後は100年以上の歴史のある光学顕微鏡で得られた組織学的情報に、立体的かつ高分解なSEM情報や元素分析情報が加わることが期待される。今回紹介する方法が新たな先天異常の形態情報の発見やメカニズムの解明につながる可能性がある。
10:30-10:50【S2-3】走査型イオン伝導顕微鏡による組織・細胞のイメージング技術の開発岩田 太静岡大学 大学院 光医工学研究科※この講演のオンデマンド配信はありません
抄録
走査型イオン伝導顕微鏡 (Scanning Ion Conductance Microscope : SICM)は液中環境において試料の表面形状をナノスケール分解能で観察可能な走査型プローブ顕微鏡である.SICMは、探針としてガラスキャピラリー(ナノピペット)電極を用いて液中に配置した対照電極との間に生じるイオン電流を検出しながら、ピペット先端を試料表面近傍に非接触で位置決め・走査して画像を形成する.液中観察に特化したSICMは試料に与える力学的相互作用が極めて低いことから,特に生体試料への応用が注目されている.
我々はSICM技法の更なる可能性を求めて,多機能化の開発に取り組んでいる.本発表では、SICMを用いたイメージング技術について、表面形状の凹凸が比較的大きなバルクの生体組織表面の観察例や細胞表面の微絨毛の観察について紹介させていただく.また,測定時間の短縮化による装置開発の取り組みとして,活性な細胞表面の微絨毛の動的観察などについて紹介する.さらに,SICMが検出するイオン電流が表面の帯電の状態に影響を受けることから,液中において帯電する表面が与えるSICM計測への影響についても解説し,さらに,帯電状態をイメージングする手法についての取り組みを紹介する.
10:50-11:10田村 勝理化学研究所 バイオリソース研究センター マウス表現型解析開発チーム抄録
疾患モデル動物、例えばマウスモデルを用いて先天異常疾患などの形態学的表現型解析を行うには、組織切片を作製し、それを詳細に観察する手法がゴールドスタンダードである。これには、複数個体の矢状面、前頭面、横断面切片をそれぞれ作製し、詳細な比較解析を行う必要がある。さらに形態情報は3次元であり、その異常を正確に捉えるためには、欠落のない連続切片を作製、顕微鏡で観察しながら脳内で3次元へ再構築することが求められる。しかしそれを可能にするためには、豊かな経験と高度な技術が必要である。医療現場では、患部を非破壊かつ連続的に2次元画像し、それを即座に3次元再構築可能なX線コンピューター断層撮影法、所謂X線CT検査が日常的に行われている。疾患モデル動物においてもこのX線CT技術が表現型解析に使用されてきたが、その対象は骨形態や骨密度、脂肪量など極限られた表現型であった。何故ならば、それら以外の脳や腎臓、心臓、マウス胎児といった軟組織については、X線による濃度分解能が極度に不足しており、画像化が極めて困難な為である。これまでに我々は、X線CTと造影剤を組み合わせにより、先天異常疾患モデル、特にマウス胎生致死表現型イメージングに威力を発揮する高速・高精細表現型解析法を開発してきた。この手法は、非常に微細な構造、時にサブミクロンレベルで構造の識別が可能であり、また同一サンプルからの矢状面、前頭面、横断面画像などあらゆる角度の断面像再構築ができる。更にそれら2D画像から3Dイメージを作成し、その表現型の違いを容易に理解することもできる。今回の発表では、この技術が疾患モデル解析に果たす可能性、その展望について議論したい。本研究は筑波動物実験審査委員会、並びに筑波遺伝子組換え実験安全委員会の承認を受け実施した。
11:10-11:30高桑 徹也京都大学 大学院医学研究科 人間健康科学系専攻抄録
ヒト胚子・胎児の解析では、1)対象個体を得にくい、2)対象個体が小さい、3)形態形成は立体的な変化を伴い複雑であるといった課題がある。20世紀初頭ころから、こういった課題克服のため1)大規模なヒト胚の収集、2) 肉眼解剖とその詳細なスケッチ、3)組織標本作成を基盤とした、連続組織切片の作成による立体化、模型作成による可視化が、解析の中心的手法として行われている。MRI等のデジタルデータは20世紀末より、ヒト胚の解析に活用され始めた。解像度の向上、コンピュータ処理技術の進歩、また組織標本等のデジタル化、とあわせ、ヒト胚子・胎児の解析は新たな研究分野の展開を示している。また、近年、臨床胎児エコーからも高解像度の立体情報が得られるようになっており、胎児標本群から得られたデジタルデータの知見との融和が期待される。状態のよい胚子・胎児標本群の利用、精巧な2次元、3次元像の取得は解析の基盤である。加えてデジタル情報の長所 1) 任意断面での観察、計測可能、2) 解析結果の表示、出力が多彩で理解しやすい、3)空間座標の取得が可能、等を利用した解析が可能である。短所として1)組織標本で得られる、細胞・組織情報での判別ができないこと、2)信号強度(密度)が近い組織間の判別が難しいこと、3)組織の物性、機能、形成機序への言及に限界があることがあげられる。こうした短所を補うために、1)組織(デジタル)像との併用、2)データから得られる空間座標値を用いた多変量解析、数理的解析、3) Tractgraphy等異なる条件での撮像画像の併用、等の工夫が必要になる。本講演では、発表者の研究室で行われた解析例を提示し、立体デジタル情報を活用したヒト胚子・胎児の解析の特長、課題について明らかにしたい。
休憩(10分間)
- 11:4012:40
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企業セミナー
【LS-1】画像撮像・解析の自動化とラボの生産性の向上塩田 良 パーキンエルマージャパン ヒューマンヘルス事業本部
詳細(PDF)
休憩(20分間)
- 13:0013:40
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評議員会・総会
- 13:4013:55
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奨励賞受賞講演清水 陽大同病院 小児科
抄録
出生前環境は出生後の様々な疾患や障害の重要な決定因子であり、感染症や自己炎症性疾患の重症例では感染などの刺激に対し過剰に免疫応答が生じることが知られている。本研究では妊娠中期にpoly(I:C)による母体免疫活性化(MIA)を誘導し,出生後の炎症刺激に対する免疫応答と臓器への影響を検討した。poly(I:C)または生理食塩水を妊娠中期に腹腔内投与した。3から4週齢の仔マウスにpoly(I:C)または生理食塩水の2回目の投与を行い、投与から2時間、24時間後に血清と組織を採取した。仔マウスのサイトカインプロファイル、各臓器の組織学的変化および小胞体ストレス応答 (UPR) について検討した。MIA曝露マウスでは,出生後の炎症刺激によって,過剰な炎症性サイトカインの誘導と急性肝細胞壊死を認めた。炎症や感染曝露時の細胞の恒常性維持に必要不可欠である小胞体ストレス関連分子の発現低下を明らかにした。刺激に対する適切なUPRは,細胞の恒常性維持に有利に働くが,過剰あるいは不十分なUPRは細胞の恒常性が維持できず,細胞死を惹起する事が報告されている。このことから,MIAにより出生後の炎症曝露時にUPRが不十分となり,免疫の過剰反応と肝細胞壊死が惹起された可能性が高い。本研究成果は,胎生期に過剰な免疫反応に暴露されることが,出生後の炎症性疾患のリスク因子形成に関与する可能性を示すものである。本研究は金沢医科大学動物実験委員会の許可を得て、行った。
王 賀金沢医科大学 医学部 解剖学1抄録
我々はこれまでに、マウスモデルを用いた研究により、母体由来の白血病抑制因子(LIF)が胎盤の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の産生を誘導することを明らかにしている。本研究では、胎盤における LIF のプロオピオメラノコルチン(POMC)誘導作用が CRH依存的か否かを検証した。妊娠13.5 日のマウス母獣に LIF を腹腔内投与すると、胎盤 CRH の発現亢進が確認された。また、マウス絨毛幹細胞を用いた培養実験においても、LIFによるCrh mRNAの発現誘導作用が確認された。さらに、CRH受容体1および2 (CRHR1および2)、 JAK/STAT3、PI3K/AKTおよびMAPKの各阻害剤を用いてLIFの作用経路について検討した。その結果、LIFはCRH/CRHR1経路を介して間接的に絨毛幹細胞のPomc mRNAの発現を促進し、JAK/STAT3経路を介してACTH分泌を誘導することが示唆された。
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一般優秀演題講演横田 理国立医薬品食品衛生研究所 毒性部
抄録
環境要因による精子への有害影響は次世代へと継承され、先天異常のトリガーとなり得る。しかし、精子が成熟するまでには多くの時間を要するため、その影響を早期に予測可能な精巣毒性評価法の開発が待たれる。これまでに我々は、ビタミンA(VA)過剰マウス精子頭部の形態異常率が亢進すること(Yokota et al. Andrology. 2021)、さらには、雄親由来の児の脳発達に影響が生じることを解明した。本研究ではまず、蛍光標識PNAレクチンによるマウス精上皮周期の迅速同定法を新規に開発した。HE染色による病理組織解析においてはVA過剰による精巣毒性が検出されなかったが、同法に、さらに細胞マーカー抗体による免疫染色法を組み合わせることにより、精上皮ステージVII,VIIIにおいて、VA過剰群では減数分裂開始に重要な役割を担うプレレプトテン期精母細胞数が減少することを見出した。これらの結果から、精子毒性を早期に予測可能な本評価法の有用性が示された。
山田 茉未子慶應義塾大学 医学部 臨床遺伝学センター抄録
【背景】線毛病の一つであるOral-facial-digital (OFD)症候群は多発口唇小帯と軸後性多指趾症を特徴とし、少なくとも19個の原因遺伝子が同定されている。【症例】13歳男児。両側多指趾症、多発口唇小帯、房室中隔欠損症、知的障害・てんかんの症状を認める。【結果】PRKACB遺伝子にde novoのchr1(GRCh37):g.84700915T>C, c.1124T>C (NM_182948.4), p.(Phe375Ser) を同定。(倫理規定遵守)【考察】2020年にPRKACB変異はcardio-acro-facial dysplasiaという新規疾患の原因遺伝子として3家系4例が報告された。本報告は第2報である。初報ではOFDとの関連は言及されていなかったが、本症例のみならず過去2例も多発口唇小帯と軸後性多指趾症を認めたことから、PRKACBは新たなOFDの原因遺伝子と結論した。
大久保 佑亮国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部抄録
現行の発生毒性試験は、ヒトでの予測性を担保するために多数の動物を用いる必要がある。その解決法として、ICH S5 (R3)ガイドラインでは動物実験代替法の利用について言及されているが、現在までに動物試験を網羅的に代替できる試験はない。我々は、胚・胎児発生がシグナル伝達により制御されることに着目し、化学物質によるそのかく乱作用を検出することで発生毒性を検出可能な試験法(integrated Signal Disruption Test: iSDT)を開発してきた。ヒトiPS細胞を用いたiSDT法は、既知の発生毒性陽性物質20種、陰性物質14種類を正確度0.91、特異度1.00、感度0.86で評価可能であった。また、動物試験では評価が困難であったサリドマイドやレナリドミド、ポマリドミドも適切に評価できることから、iSDT法はヒトの発生毒性を高精度・網羅的に評価可能であると考えられる。
劉 舒捷花王株式会社 安全性科学研究所抄録
胎児性アルコール症候群(FAS)は妊娠中の母親の過飲により子供で見られる先天異常で、顔面の形態異常や精神発達遅滞がFAS患児の特徴である。FAS発症機序としてアルコール暴露による神経堤細胞(NCCs)の発生異常がマウスなどで報告されるが、マウス胚で神経堤細胞の遊走を観察することが困難なため新しいモデルが必要である。本研究ではゼブラフィッシュ胚を用いて、NCCs遊走・分化期のみに過飲を模したエタノール暴露によりFAS表現型を再現した。これらの個体ではNCCsの遊走と細胞増殖・細胞死の異常が見られた。つまり遊走・分化期において遊走中のNCCsの多くが細胞死することで頭蓋顔面奇形が生じると考えられた。さらにこの時期のNCCsで一次線毛の形成異常が見られたことから、FAS発症に一次線毛を介したシグナル経路の関与が示唆された。今後はRNA-seq解析により関連するシグナル経路を特定する予定である。
佐久間 千里愛知学院大学歯学部附属病院口唇口蓋裂センター抄録
緒言:当センターでは、胎児の口唇口蓋裂の診断を受けた妊婦に出生前カウンセリングを行っているのでその概要を報告する。方法:2012年1月~2021年12月に当センターの出生前カウンセリングを受診した58名を対象に、実態調査を行った。結果:母体年齢別では、24歳以下が3名、25-29歳:9名、30-34歳:22名、35-39歳:21名、40歳以上3名であった。母親が告知を受けた在胎週数は、21週まで7名、22-29週:32名、30-34週:11名、35週以降:1名、不明:7名であった。考察:胎児の口唇口蓋裂が確認された際、希望があれば出生前カウンセリングを行っている。口唇口蓋裂の病態や当科における一貫治療について、ムービーを用いて説明を行っている。また、必要に応じて遺伝カウンセリングも受診していただき、安心して出産ができる体制を整えている。今後も改良を加えて実施していきたいと考えている。
八十島 左京三重大学 大学院 医学系研究科 統合薬理学抄録
本研究では、発達期のゼブラフィッシュに対する放射線照射が顎形成に与える影響と、それに対する葉酸の保護作用について検討した。ゼブラフィッシュ仔魚の顎形成に影響するX線照射の条件を検討したところ、受精36時間後に8GyのX線を照射することで著明に顎形成が障害されることを見出した。また、X線照射の1時間前から葉酸(200 microM)を投与することにより、X線照射による顎形成の障害が有意に抑制されることを見出した。X線照射による顎形成の障害メカニズムと、葉酸の保護作用機構の解明を目的としてRNA-Seqを実施した。その結果、X線照射によりp53に関連する様々なシグナル経路が異常となり、その一部の経路が葉酸投与により回復する可能性が示唆された。これらの経路に関与する遺伝子をゲノム編集したゼブラフィッシュを用いてさらに解析することにより、器官形成期の放射線照射による先天異常の病態メカニズムの一端解明につながることが期待される。
新谷 明里金沢医科大学 医学部 解剖学1抄録
表皮に発現が認められるものの、役割がほとんど明らかになっていないメラノコルチン5受容体(MC5R)について、MC5Rノックアウトマウス(MC5R-/-)に対するUVB照射モデルを用いて機能解析を行った。MC5R-/-の皮膚バリア機能は低下しており、野生型では潰瘍を生じない照射量でも潰瘍を生じた。電子顕微鏡解析により、MC5R-/-ではトランスゴルジネットワーク(TGN)から分離した層板顆粒の減少とTGNの拡張、マージナルゾーンとケラチノサイト細胞間における脂質貯留の減少が明らかになった。MC5R欠損によりケラチノサイトにおける脂質分泌機能の障害が惹起され、皮膚バリア機能の低下につながると考えられた。本研究により、表皮におけるMCRの役割として、MC1Rを介したメラニン色素誘導による紫外線防御機構、MC2Rを介したグルココルチコイド分泌による抗炎症機構に加えて、新たに、MC5Rが紫外線感受性および皮膚バリア形成に関与することが示唆された。
松井 拓磨近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻抄録
抗てんかん薬であるバルプロ酸(VPA)は、妊娠中の服用により児の自閉症発症リスクを上昇させるとの報告がある。本研究では、胎児期にVPAを曝露したマウスの発達段階特異的な行動異常と遺伝子発現の異常を解析し、胎児期のVPA曝露が及ぼす高次脳機能の発達に及ぼす影響を考察する。ICRマウスの妊娠12日目にVPAを400 mg/kg体重で皮下投与し、発達期の新奇環境及びホームケージでの自発的活動量と社会的相互作用の解析を行った。また、VPAによる行動異常の要因として脳内炎症に着目し、抗炎症剤であるピオグリタゾン(Pio)を並行投与し、検出された行動異常が改善されるかを解析した。さらに大脳皮質を用いて炎症や神経伝達に関わる遺伝子の発現解析を行った。その結果、VPA群では活動量と社会的相互作用の異常が確認でき、Pio投与群ではその異常が改善された。以上のことから、胎児期のVPA曝露による自閉症様行動異常は、脳内炎症が関与する可能性が示された。
休憩(10分間)
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シンポジウム3
「正常と異常を見究めるためのモデル動物を用いたアプローチ」(仮題)座長:西村 有平三重大学大学院医学系研究科統合薬理学
西園 啓文金沢医科大学総合医学研究所
15:00-15:25【S3-1】ゲノムワイド関連解析を用いたキンギョの多様な表現型に関連する遺伝子の同定今 鉄男ウィーン大学※この講演のオンデマンド配信はありません
抄録
キンギョは、ゼブラフィッシュと同じコイ科の硬骨魚類である。キンギョには眼球、体形、ヒレ、体色などに多様な表現型が見られる。網膜色素変性や骨形成異常などヒトの疾患と類似した表現型を持つキンギョが存在することから、キンギョがヒト疾患の病態解明や診断・治療法の確立に役立つことが期待されている。また、キンギョは、染色体数が他の硬骨魚類に比べて倍化しているため、全ゲノム重複と多様な表現型の関連性の観点からも注目されている。そこで、キンギョの多様な表現型に関連する遺伝子を同定するために、キンギョの代表的な27品種を集めて、全ゲノム配列解読を行った。そして、ゲノム上の変異情報をもとに、キンギョの各表現型に対して全ゲノム関連解析(GWAS)を行った。その結果、5つの表現型(出目、背ビレ欠損、アルビノ、尾ビレ伸長、ハート尾)と関連する遺伝子を同定した。例えば出目の表現型は、Lrp2遺伝子のナンセンス変異との関連が示された。背ビレ欠損の表現型は、Lrp2遺伝子の21番目のイントロン中の313bpの欠失及び、それに伴う遺伝子発現低下と関連があることが示された。さらにキンギョのゲノムを、トランスポゾンの染色体間の不均一な分布に基づき、LサブゲノムとSサブゲノムの2つのサブゲノムに分割した。分子進化解析とトランスクリプトーム解析により、Lサブゲノムは、Sサブゲノムに比べて遺伝子変異が少なく、全体的に高い遺伝子発現量を示すことが明らかとなった。今回の5つの表現型と以前に報告された三ツ尾の表現型のいずれにおいても、Sサブゲノムに変異または、遺伝子の欠失が認められた。このことから、キンギョのゲノムではより進化的に固定されたLサブゲノムと、より自由度の高いSサブゲノムが共存することにより、多様な遺伝子変異をゲノム中に保持することが可能であり、これがキンギョの表現型の多様性の一因である可能性が示唆された。
15:25-15:50西園 啓文金沢医科大学 総合医学研究所抄録
近年、日本をはじめ先進国における少子化が進むなかで、精子の質と量の低下や不育症の増加など、原因不明の不妊が増えてきている。このような現象は、ヒトだけではなく、ウシなどの家畜や野生動物でも広く確認されており、『生殖科学における地球規模の課題(Findlay, Reproduction 2019)として問題提起されている。この人類共通の重大な課題について、提言のなかでは体外受精や顕微授精、胚移植技術などの生殖補助技術の高度化が有効であると指摘している。例えば、胚移植の際に母体に戻す胚の『品質(embryo quality)』を向上させることで妊娠が成立する可能性を引き上げることなどが挙げられている。この胚の品質の向上のためには、より品質の高い胚のスクリーニング方法の開発、タイムラプスイメージングインキュベーターなどの胚の体外培養技術の改善による胚品質の向上を目指した研究が重要であるとされており、世界各国で研究が行われている。われわれは、最近マウス受精卵膜上にグリシンレセプターα4(Glra4)が発現しており、母体卵管液中のグリシンと作用することで初期発生に影響を及ぼしていることを報告した(Nishizono, Reproduction 2020)。このシステムはヒト、ウシにも保存されていることも示唆されている。一方で、ヒトにおいてGlra4は偽遺伝子であり、代わりにα2サブユニットが発現している。このように、マウスは優れたモデル動物ではあるものの、生殖補助技術開発研究においては必ずしもヒトの表現型を再現していない場合がある。そこでわれわれは、進化的にヒトとマウスの中間にあり、感染症研究や神経科学研究などで用いられている非モデル動物・ツパイ(tree shrew)を用いて生殖補助技術開発の研究を開始している。今回はこれらモデル動物、非モデル動物を用いた研究について討論したい。
15:50-16:15天竺桂 弘子東京農工大学 大学院 農学研究院抄録
多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチ(Copidosoma floridanum,トビコ)は、1mmに満たない小さな昆虫である。トビコは、寄主であるキクキンウワバ(Thysanoplusia intermixta)などヤガ科キンウワバ亜科の卵内に産卵する。寄主に産下されたトビコ卵は、桑実胚の段階に達すると、寄主の胚子発生期間に寄主組織に損傷を与えることなく寄主体内に侵入する。トビコ胚子が寄主体内に定着すると、1つの胚子が2000もの同一遺伝子を持つ胚に分裂し、多胚化する。その後、それぞれが役割の異なるクローン個体として発生する。すなわち、子孫を残す繁殖幼虫と他を攻撃・排除する兵隊幼虫へ発生し、これらがカーストを構成する。しかし、トビコが1つの胚子から2000もの多胚に分裂する仕組みについては、未解明であった。この理由として、トビコの遺伝子機能アノテーションが不完全であったため、これまでトランスクリプトーム解析による網羅的な遺伝子発現解析が十分に行われて来なかったことが挙げられる。一方で、トビコは培養下で2細胞期から多胚形成まで発生誘導が可能である。さらに当研究室において、幼若ホルモン(JH)の添加により多胚形成を促進する系を確立した。トビコ胚子培養において、JH添加による多胚形成までの時間差を利用したトランスクリプトーム解析が可能となれば、トビコの多胚形成を制御する遺伝子群を見出すことが可能である。本講演では、トビコでの遺伝子発現解析手法の構築により、多胚形成を制御する遺伝子群の同定を行なった研究事例を紹介する。また、ヒトの多胚形成の仕組みを解析するモデルとしてトビコの利用可能性についても議論したい。
16:15-16:40【S3-4】ゲノム編集を用いた先天性疾患モデル動物の作出と解析魚崎 英毅自治医科大学 分子病態治療研究センター 再生医学研究部※この講演のオンデマンド配信はありません
抄録
近年のゲノム編集ツールの発展は目を瞠るものがある。特にRNA依存的ヌクレアーゼであるCRISPR/Cas9の登場により、受精卵に対して直接ノックアウトや部位特異的ノックインすることが可能になり、今までにないスピードで任意の遺伝子異常を持つ先天性疾患モデル動物の作出が可能になった。我々の研究室ではこれまでに免疫不全動物(マウス・ピッグ)や心筋症患者で見つかった遺伝子変異を持つマウスモデルを作出してきた。これらの経験から本シンポジウムではゲノム編集に付随するいくつかの問題を共有したい。X染色体にあるIl2rg遺伝子をノックアウトするとX連鎖型重症複合免疫不全症(X-SCID)となることが知られている。我々は新規X-SCID系統をCRISPR/Cas9を用いて作出した。そのうちの1系統ではExon 2に7塩基の欠失があるにも関わらず、Il2rgタンパクの発現を認めた。ゲノム上の欠失が必ずしも表現型にならない例であり、ノックアウト系統を作出する際にはタンパクレベルでの発現を確認する必要性を示唆している。最近のゲノム編集効率は非常に高く、容易にホモ編集個体が得られ、むしろヘテロ編集個体を得ることの方が難しい。結果的に免疫不全動物や心筋症あるいは心臓奇形を有するモデルは胎生期あるいは生後致死となってしまうことがある。そのようなモデルでは、F0ですぐに解析を行うか、生まれてきた動物の生存期間を延長させる工夫が求められる。生殖工学技術を持ち、ゲノム編集に取り組んでいる研究室では、新しいマウス系統の作出はルーチン作業となっている。一方で作出されたマウス系統の解析はルーチン化することは難しく、専門性を持つ研究室での解析が求められ、ボトルネックとなっている。いかにここを加速するのかが今後問われることになるだろう。
休憩(10分間)
- 16:5018:30
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シンポジウム4
「先天異常学研究の未来を織りなす 若手ピックアップシンポジウム」座長:才津 浩智浜松医科大学医化学講座
駒田 致和近畿大学理工学部生命科学科
16:50-17:15鈴木 寿人慶應義塾大学 医学部 臨床遺伝学センター抄録
次世代シーケンサーの登場によりゲノム解析技術が大幅に向上し、数多くの先天異常症候群が確立された。新規先天異常症候群として認められるためには、[1]血縁関係のない2名以上の類似した症状をもつ患者が存在すること、[2]変化のみられた共通する遺伝子の機能解析がされていること、が求められる。この要求を1名あるいは1施設のみで応えることは難しく、多施設・多研究者との連携が必要になる。
[1]を達成するためには、臨床医同士で連携し、候補となる遺伝子や該当患者が持つ症状をデータベース化しておくことが肝要である。使いやすいデータベースとするためには、情報技術者との連携を行い、目的達成に向けてどのような機能を搭載するのか、登録しやすいデータベースとなっているか、十分な話し合いが必要になる。
[2]を達成するためには、モデル生物を用いた基礎医学研究者との連携が必要になる。幸いにも演者は未診断疾患イニシアチブを通じた研究(IRUD-beyond)で、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュの研究者の協力が得られ、NSF、OTUD7A, CTR9遺伝子に起因する新規疾患を確立することができた。
先天異常症候群の研究には、さまざまな職種・人材との連携が必要である。まもなく診断から創薬へと転換していくことが予測される。これらの創薬へ進むにあたって、モデル動物を用いた毒性実験を含む検証、患者への投薬にあたっての倫理的な課題の解決、投与した結果の臨床評価など多種多様な人材が必要とされる。引き続き、本学会を通じて、先天異常症候群の病態解明、治療法の開発に取り組み、医療に貢献したい。
17:15-17:40楠山 譲二東北大学 学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部抄録
妊婦の肥満は自身の健康に害悪を及ぼすだけでなく、子に対して2型糖尿病や慢性代謝性疾患の発症リスクを伝播させる。近年、げっ歯類を用いた動物実験において、妊娠中の運動は母親の肥満による仔の耐糖能機能の低下を改善できることが報告されているが、そのメカニズムは不明であった。我々はこれまでの研究で、胎盤由来の液性因子が妊娠期運動効果を伝達しているデータを得たことから、妊娠期運動をしたマウスの血清プロテオミクスと胎盤RNA-seq、胎盤特異的遺伝改変により、妊娠期運動効果伝達因子はsuperoxide dismutase 3 (SOD3)であることを同定した。SOD3は妊娠時運動によって胎盤から分泌され、胎仔肝臓の糖代謝遺伝子プロモーター部位のDNA脱メチル化の誘導と、ヒストンメチル化の一種であるH3K4me3の安定化を促進することで、エピジェネティクス改変を誘導していた。その結果、仔の肝臓における糖代謝遺伝子の発現と糖代謝能が向上し、妊娠時運動によって仔は太りにくい形質を獲得していた。更にSOD3は、身体活動が活発なヒト妊婦の血清と胎盤で有意に増加しており、ヒト応用が有望なタンパク質であることが示唆された。興味深いことにSOD3の効果は抗酸化剤の投与や、生後のSOD3タンパク質の投与では模倣できず、妊娠期の運動の実践的有用性が示唆された。このようにSOD3を介した胎仔臓器と母体胎盤の妊娠期運動誘発性クロストークの発見は、代謝性疾患の次世代伝播機構やその予防方策の立案に極めて重要であると考えられる。本演題ではこれまでの成果を踏まえ、世代間情報伝達研究の最前線と今後の展望についても紹介したい。
17:40-18:05田崎 純一花王株式会社 安全性科学研究所抄録
頭蓋顔面奇形は頻発する先天異常の一つである。その原因には遺伝要因や化学物質などの環境要因の影響が指摘される。しかし化学物質による頭部顔面奇形の発症機序の多くは不明である。我々はゼブラフィッシュ胚をモデルに、化学物質による頭蓋顔面奇形発症機序を解析してきた。哺乳類で頭蓋顔面奇形を誘発する12種の化学物質を暴露すると、ゼブラフィッシュ胚の神経頭蓋と顔面頭蓋の形態異常が見られ、これらは頭蓋の軟骨細胞数の減少とその分化・成熟異常に起因していた。また頭部神経堤細胞マーカー遺伝子の発現変動が見られた。つまり化学物質による頭蓋顔面奇形は、頭部神経堤細胞の発生・分化異常という哺乳類と同じ機序で生じると考えられた。本結果を踏まえ、神経堤細胞を視覚化するTg(sox10:EGFP)を作製し、その挙動を詳細に解析した。本発表では頭部神経堤細胞の挙動と化学物質の影響を紹介する。さらに本モデルの応用可能性を検討すべく、発症頻度が高い口蓋裂に着目した。化学物質による口蓋裂発症機序の多くは不明であり、催奇形性評価モデルが無い。哺乳類で口蓋裂を生じる化学物質を暴露した結果、全ての化学物質で口蓋部位に亀裂が生じ、口蓋裂様の症状を再現できた。これらの口蓋では細胞増殖の低下と細胞死の増加が見られた。口蓋裂の原因にWntシグナル異常が知られるため、化学物質で生じる口蓋裂との関連を調べた。その結果、口蓋裂を発症したゼブラフィッシュ胚ではWntシグナルが減弱し、更にWntアゴニストでWntシグナルを活性化すると口蓋裂が回復された。つまり化学物質で生じる口蓋裂は、Wntシグナルの減弱を介した細胞増殖/アポトーシスのバランス崩壊であると考えられた。本モデルが口蓋裂発症原因の一つの遺伝要因と環境要因の相互作用解析に応用可能と期待している。今後は臨床情報やモデル生物の情報を統合し、ゼブラフィッシュ胚を用いた疾患モデルの確立や催奇形性評価に繋げる。
18:05-18:30【S4-4】母胎の環境要因と仔の脳機能の発達のかかわりを紐解く駒田 致和近畿大学 理工学部 生命科学科※この講演のオンデマンド配信はありません
抄録
細胞動態が活発な胎生期の脳神経系は、化学物質やストレス曝露、感染症の罹患などの環境要因に対して高感受性であり、この時期の神経細胞への影響は、先天奇形や脳機能異常の原因となりうる。例えばエタノールの胎児期曝露は、発達障害を伴う胎児アルコール症候群を誘発する。その脳内では、発達障害の原因の一つである大脳皮質の形態形成の異常を、ミクログリアの異常な活性化を伴なう脳内炎症が、直接、あるいは間接的に神経細胞の増殖や分化、投射に異常を誘発することで引き起こしている。一方、この脳内炎症はエタノール特有のものではなく、様々な環境要因によって幅広く起きており、発達期の神経回路の構築にも関与するミクログリアの機能異常は、自閉症の潜在的な発症原因となりうる。ただ、これらの疾患への関与は生後から成熟後にかけてであり、胎児期のミクログリアの異常と先天奇形や脳機能障害との相関については不明な点が残っている。そこで、母胎環境が胎児期のミクログリアの異常を誘発し、それが先天異常や発達障害に関連する可能性に着目した。様々な胎児期環境因子曝露モデルマウスを用いた解析を行い、成熟後の活動量や社会的相互作用の異常だけでなく、発達段階特異的な活動量の亢進を検出した。さらに、成熟後に拘束ストレスを負荷したところ、活動量に変化が見られた。並行して、胎児期、新生児期に神経新生の亢進や、分化段階特異的な形態的異常を検出した。これらことから、胎児期に脳内で引き起こされた異常が、発達期および成熟後の行動やストレス応答に影響していると考えられる。さらにこれらの異常が検出された胎児の脳内で、ミクログリアが増加し、炎症関連因子の発現も変動していることを明らかにした。この脳内炎症が発達障害様の行動異常や大脳皮質の形態形成の異常の原因であると仮定し、抗炎症剤の並行投与によって、その異常を抑制できる可能性についても報告する。